YellowCat たろうに聞いた!!

君の胸で香箱座りをしていたあの頃、僕はただ咽を鳴らしていただけではなかった。この世界の意味を、ずっと考えていた。アスファルトの焼ける匂い、彼岸花が咲いた用水路、速度超過した黒いクラウン、僕の毛が付いたブレザー。君が知っていたものも、知らなかったものも、ずっと見てきた。そして、考えてきた。君が生きるこの世界の意味を。その答えを、ここに、示したいと思う。

低気圧を背負いながら

 ここ数ヶ月、かなり心身的に疲弊し、外に出ることもままならない状態だった。TVに映される‘ご馳走‘を頬張る人間が同じ生き物とは思えないほど食欲が無くなり、夜は形だけ横になるも神経のスイッチの切り方が解らずに寝付けない。ただ、本棚に並んだ、読み終えた本の背表紙を眺めることしかできなかった。それらを読んできた結果、私がこうなったのだとしたら、私は、私に目隠しをして焼き尽くされつつある深い森に私を置き去りにした運命というものを実際に見ていたのかもしれない。背表紙たちもまた、炎に怯え横たわったまま動かない痩せた生き物を見ていた。このまま夜のうちに全て灰になるとしたら。ずっと、このまま、寝ていればいい。しかし、空が青く輝く兆しを見せ始めたら。少しだけ、時間が経つとするならば。それは、希望なんていう夢想に終わる我侭ではなく、時間という私を赦し裏切ってきた友への示達だった。君がまた、私を赦し誘うならば。 私は、皆と、酒を交わしたい。考え抜かれた軽快な言葉を交わしたい。新鮮な土地を訪ねたい。食欲という私たちの中に住む小さな巨人をもてなしたい。太陽と幾ばくかの雲の下、業火をもって肉や草を焦がしたい。意味を持てるものに対し、時間と労力を注ぎたい。
 それを、私の目の前に提示してみせた。手許にあった付箋に、できるだけ強く記した。私の目は、非情といえる運命を睨むためだけにあるのではない。それが理解できただけで、友は、私を赦したのだ、と確信した。
 もし、今君が、光の届かない大陸棚を息もできずにゆっくりと下降しているのならば。暖色が融和した温かいミルクティーにこの世界の敵意を見出したのならば。友は、必ず、君を赦していく。少しずつ、確実に。君は、そんな少々鈍足で無情とも思える友を、信頼しなければならない。彼は、君の信頼には、応えてくれる。もちろん、信頼だけでは少し心細いが、それが全ての起点になる。信頼するのは元手もいらない。
 私も君も、この世界を謳歌する義務がある。その務めは、死ぬまで終わらないだろう。確かに、寝ている場合ではないのかもしれない。